登録して招待リンクを共有すると、動画再生報酬と紹介報酬を獲得できます。

並行図書 / Parallel Library | Alzhacker
@Alzhacker
学術論文・海外書籍・記事の紹介(with AI)。草の根コミュニティと病いの人を支え、並行社会による生存と再生を目指す。 分野:Iran/War, Health, Neuroscience, C19, Survival, 科学哲学, 抵抗言説 拠点:Site, Note, X, Telegram
参加 January 2017
857 フォロー中    44.8K ファン
人口爆発の時代は、すでに終わっていた。日本のシミュレーションが暴く本当の危機 マルサスが『人口論』を書いた1798年、世界はまさに人口爆発の入り口に立っていた。ところが今、その前提が根底から覆っている。世界の合計特殊出生率は1960年代の5.05から2015年には2.57まで低下し、日本は 1.40と置換水準を大きく割り込む。人口増加を前提に組み立てられた経済も社会制度も、その土台を失いつつあるのだ。 本書『持続可能な人口の原理に関する試論』で、人口学者の原俊彦はマルサスの原理を根本から問い直す。もはや「いかに増加を抑えるか」ではない。問題は「いかに減少を生き延びるか」に移った。 原は人口発展を、無数のロジスティック波が折り重なる多重構造として捉える。短期的には上がったり下がったりを繰り返しても、長期的には一つの巨大なS字カーブに統合されていく。世界人口は今、その天井に近づきつつある。 マルサスは「抑制されない人口は幾何級数的に増加する」と喝破したが、同じ論理は減少にも働く。成長率がプラスなら倍増し、マイナスなら半減する。そして人口が置換水準から乖離すれば、社会の持続可能性そのものが危機に陥る。これが本書の核心的主張だ。 日本の人口転換をシステム・ダイナミクスで再現したシミュレーションが、その未来を生々しく描き出す。原が構築したDTMJモデルは、6つの要素が相互に絡み合いながら人口動態を動かしていく仕組みだ。 ここで因果が逆転する。 私たちは「社会が豊かになったから子供が減った」と信じてきた。しかしモデルが示すのは、社会資本の蓄積が寿命を延ばし、その延びた寿命が生殖期間の実効的な短縮と出生制御の圧力を生み、結果として人口転換を加速させたという流れだ。豊かさが少子化を招いたのではない。豊かさを可能にした社会の仕組み自体が、人口を減少へと追いやる機関車だったのである。 シミュレーションの標準ランは、1872年から200年にわたる推移を追う。粗出生率42.8‰、粗死亡率22.2‰からスタートした日本社会は、まず死亡率が下がり、続いて出生率が追随する。やがて2011年相当の時点で両者が交差し、人口は減少へと転じた。総人口は初期の6倍でピークを打ち、高齢者割合は9.4%から31.9%へと跳ね上がる。合計出生力は5.90から2.11へ、結婚タイミングの後期化を加味した実効値に至っては1.14まで落ち込む。 この数字が示す現実は冷厳だ。一度縮み始めた社会は、容易には止まらない。 さらに感度分析が三つの制御ノブを浮かび上がらせる。最大出生力、最大寿命、そして移住である。社会資本の蓄積率が高ければ高いほど人口転換は加速し、縮小のスピードも増す。寿命が延びれば転換はいったん遅れるが、後により急激な減少となって跳ね返ってくる。15~44歳の純移住がプラスなら減少は緩和され、マイナスなら拍車がかかる。 では、どうすれば持続可能な人口へと軟着陸できるのか。 原は二つの方策を示唆する。早期の結婚・出産を社会全体で支える仕組みと、生殖補助医療による後期出産の支援だ。だがこれらは技術的な解決策にすぎない。本質的には「置換水準を維持しつつ最も長く続く集団が生き残る」という、進化のルールそのものを受け入れる必要がある。 縮小社会を持続可能にするには、分配の原理を根本から変えなければならない。「働かない者は食べられない」から「働かなくても食べられる」への転換である。巨大な生産能力は十分な有効需要なしには無意味だからである。物質財から非物質的サービスへ生産の重心を移し、食料供給網も再構築する。生涯教育を普遍化し、家族の機能をネットワークで補完する。これはユートピアの絵空事ではない。むしろ避けて通れない設計変更のリストなのだ。 人口減少を嘆くだけの段階は終わった。目を向けるべきは、置換水準から下方に乖離した社会がどれほどの速度で自壊するか、という問いである。本書が突きつけるのは、増えすぎを恐れた二世紀前の常識をひっくり返す、もうひとつの人口原理だ。 — 書籍『An Essay on the Principle of Sustainable Population』(『持続可能な人口の原理に関する試論』) Toshihiko Hara(札幌市立大学名誉教授)2020年
もっと見る