『乙嫁語り』のあるコマを、ずっと忘れられないでいる。
旅人が見知らぬ土地に着く。どこに泊まるかも、まだ口にしていないのに——「うちに来なさい」と声がかかる。
すると別の人が割り込む。「いや、うちの方がいい」「米もある、干し菓子もある」「布団だって新しい」
見知らぬ人をもてなすために、競い合っている。
義務じゃない。習慣でもない。ただ、そうすることが自分たちにとって自然だから——それだけだ。
道に迷った旅行者が、一人の地元の人に声をかける。気づけば夕食に招かれている。朝になっても、まだそこにいる。
一期一会、という日本語がある。でも「一期一会」は、どこか緊張を帯びた言葉だと思う。この出会いは二度とないから、大切に——という、静かな覚悟のような言葉。
中央アジア(キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン)の人々の歓迎の仕方は、はるかに気さくだ。堅苦しさはない。ただ、心のこもったものなのだ。
扉は最初から開いている。鍵をかけることを、思いつかないみたいに。
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