店の奥から運ばれてきた白焼きを見て、隣の客が小さく言った。「ずいぶん、無防備なうなぎですね」確かにそうだった。蒲焼きのような艶もなければ、甘い香りで人を振り向かせることもない。白い皿の上で、塩とわさびと大根おろしを従え、ただ焼かれた身のまま横たわっている。けれど箸を入れると、ふっくらした身の奥から、脂の甘みがゆっくり現れた。
塩を添えれば輪郭が立ち、わさびを置けば、濃厚な脂の中に涼しい風が通る。
大根おろしは、次の一口のために舌を静かに洗ってくれた。
白焼きは、最初から好かれようとしていない。
タレで記憶に残ろうともせず、香りで食欲を急かすこともない。こちらが丁寧に味わった分だけ、隠れていた旨みを少しずつ返してくる。
人間も、本当に深い人ほど似ている。初対面では派手さがなく、言葉も少ない。だが、長く付き合うほど、飾らない優しさや誠実さが滲み出てくる。
白焼きとは、第一印象で勝とうとしない料理である。
それでも最後には、濃い味より長く心に残る。
本物には、自分を大きく見せるためのタレなど必要ないのである。
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