先日、出張先でいま話題の映画『開戦前夜』(NHKスペシャルを映画化)を観ました。早朝の回にもかかわらず満席で、若い人も多かったです。
主演の池松壮亮さんはじめ若手俳優たちの熱演は素晴らしいし映画としては面白かったけれど、歴史的に重要な出来事を「頑迷な権力者vs正義感の強い若者」という類型的な構図で描こうとしたことは少し残念に思いました。
1940年に設立された内閣総理大臣直轄の総力戦研究所は、官僚・軍人・民間企業から30代前半の若きトップエリートたちを集め、日米戦のシミュレーション(机上演習)を行わせました。結論は「日本は緒戦こそ優勢なものの、物量差により数年で敗北する」というもので、後の太平洋戦争の推移とほぼ一致する正確な分析でした。
この結果は当時の近衛文麿内閣に報告されますが、「頑迷な権力者」の象徴である東條英機・陸軍大臣の「あくまで机上演習に過ぎない。戦(いくさ)は精神が重要だ」のひと言で無視され、日本は破滅的な戦争へ突き進むことになります。
また映画では、総力戦研究所の所長を、若者たちに日米開戦を肯定するよう求める卑劣で陰湿な人物として描いています。「頑迷な権力者」側の身近な人物に仕立てたかったのかも知れませんが、事実は違います。
実際の所長は国際派で日米開戦を憂えていた飯村穣・陸軍中将が務め、若者たちに自由闊達な議論を奨励していました。孫の飯村豊氏(元駐仏大使)はこの映画が事実を歪曲し祖父の名誉を毀損しているとして現在、NHKなどを提訴しています。
NHKや映画の製作者は、無理にでも「頑迷な権力者vs正義感の強い若者」という対決構図にした方が、若い観客の共感をえられるとでも考えたのでしょうか。
この映画のテーマは、負けると知りながら戦争に突き進んだ「時代の空気」とは何だったのかを問うことだそうです。しかしその答えは創作からは生まれません。
私はむしろ、関東軍参謀長も務めた飯村陸軍中将までもが若者たちと同じく日米開戦は回避すべきとの思いを持っていた事実を観客に伝えた方が、「時代の空気」の危険な本質に迫り、映画も深みを増し、若い人の心も打つのではないかと思いました。
※参考文献
『現代の防衛と政略―名将・飯村穣の憂国定見 (上法快男)』
『総力戦研究所と海軍第一委員会(工藤美知尋)』
『総力戦研究所の真実(飯村豊)』
『昭和16年夏の敗戦(猪瀬直樹)』
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