乳がんになったら、交際相手が去っていきました。
でも10年後――。
35歳で乳がんと診断された患者さん。
最初の外来には、交際中の男性と一緒に来られました。
しかしその彼は、どこか上の空で、視線は定まらず、病状の説明も治療の話も、ほとんど聞いていないように見えました。
ただ座っているだけ。
心ここにあらず――そんな雰囲気でした。
次の外来。
彼は来ませんでした。
結婚していたわけではありません。
ですが若い患者さんでは、こういう現実を何度も見てきました。
「病気になった相手を支える覚悟が持てない」
その事実に直面することは、乳がんそのものと同じくらい、時に心を深く傷つけます。
患者さんは、治療のつらさを乗り越えながら、
人間関係の脆さも同時に味わっていました。
それから10年後――。
術後7年目の診察日。
診察室で名前を呼ぶと、名字が変わっていました。
私は一瞬戸惑い、
カルテの名字と、目の前の患者さんの顔を交互に見ました。
すると彼女は、少し照れくさそうに微笑みました。
隣には、新しいご主人。
結果説明の時は、いつも少し不安そうにこちらを見つめています。
でも説明が終わると、彼女と一緒にほっとしたように笑顔になるのです。
それから毎年、
8年目、9年目、10年目も、
二人は一緒に結果説明を聞きに来てくれました。
外来で並んで座る後ろ姿が、
なんだかとても温かくて。
乳がんは、確かに人生から多くのものを奪います。
髪も、時間も、胸も、
時に、大切だと思っていた人間関係も。
でも時に、静かに教えてくれます。
「誰が本当に隣にいてくれる人なのか」を。
あの時去っていった彼は、
彼女を深く傷つけました。
けれど結果的には――
彼女が、
“本当に人生を一緒に歩ける人”
に出会うための、
ひとつの分岐点だったのかもしれません。
显示更多