「人は、知らないうちに、過去を生きている」
怒られたことがある人は、
まだ怒られていない相手にも怯える。
置いていかれたことがある人は、
まだ離れていない相手を追いかける。
裏切られたことがある人は、
まだ何も起きていないのに疑う。
壊れていく人を見た人は、
まだ壊れていない人を心配する。
そして本人は、
過去を思い出しているつもりはない。
むしろ、
「現実を見ている」
と思っている。
でも実は、
今の相手を見ているようで、
過去の結末を見ていることがある。
大切な人は怒る。
大切な人は離れる。
大切な人は嫌う。
大切な人は裏切る。
大切な人は壊れる。
そんな結末を一度経験すると、
人は知らないうちに、
もう二度と同じことが起きないように生き始めることがある。
怒られないように。
嫌われないように。
見捨てられないように。
壊さないように。
けれど人生には時々、
違う結末が訪れる。
怒らなかった人。
離れなかった人。
嫌わなかった人。
裏切らなかった人。
壊れなかった人。
その時、
変わるのは相手ではない。
世界の見え方が少し変わる。
「あの時と同じになるとは限らない」
と知る。
過去は消えない。
忘れるわけでもない。
でも、
過去が未来を決め続ける力が
そうやって少し弱くなることも、ある。
人は知らないうちに、過去を生きている。
だから時々、
目の前の人が過去とは違う結末を見せてくれた時、
人生が静かに動き始めることがある。
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