【スティーヴン・キング先生のいちばん好きな作品の映画化を見届けました!】
6月26日から本日8月6日まで公開されていた映画「ロングウォーク」を、上映終了前日のきのう、ようやく観に行くことができましたので、本日のMXS(Morning X Says=モーニング・エッセイズ)では、それについて書かせていただきます。
映画の原作「ロングウォーク」は、復刊されるまえの邦題は「死のロングウォーク」でしたが、本稿では「ロングウォーク」というタイトルで統一します。
ちなみに、原題は「The Long Walk」です。
流水が初めて読んだキング先生の作品は「ミザリー」の単行本で、中学生のときでした。
そのときは、キング先生の作品だから読んだわけではなく、新聞広告で見かけて、ものすごく面白そうな小説だから読んだのです。
作者が有名な作家だと知ったのは、だいぶあとになってからでした。
キング先生に本格的にハマったのは、大学時代に創作仲間にオススメされて「ロングウォーク」を読んだことがきっかけでした。
それは、近未来の世界を舞台にしたSFホラーで、原作小説では14歳から16歳まで、映画版では18歳の少年100人が高額の賞金のために「ローグウォーク」というレースに参加する物語です。
ひたすら歩き続けるだけのレースなのですが、原作小説では時速4マイル(約6.4キロメートル)、映画版では時速3マイル(4.8キロメートル)以下になると警告され、警告を3回受けて、なおスピードが戻らない場合は射殺される、という容赦ないルールで、最後のひとりになるまで続けられます。
警告を受けずに1時間歩き続けられたら、すでに受けている警告をひとつ消されるので、仮に3回警告を受けても、その後にスピードアップして3時間歩き続ければ、警告ゼロに戻せるのです。
ルールはそれだけのシンプルな設定ですが、だからこそキング先生の筆力は冴え渡ります。
100人の少年たちをだれひとり重複させずに個性豊かに描き分け、最後のひとりになるまで、99通りの死にざまを、見事に描ききっています。
(映画版では、おそらく尺の都合もあり、半分の50人になっていました)
この文章で初めて知って、「え、それって流水大説っぽい?」と思ったあなた、大正解です。
「ロングウォーク」こそ、流水大説の精神の源泉にある作品なのです。
初読時には、まずそのぶっ飛んだ設定に冒頭から惹きつけられ、魅力的なキャラクターたちと彼らの濃密なドラマに没頭しました。
高見広春さんの伝説のベストセラー「バトル・ロワイアル」は「ロングウォーク」から着想を得たものだと公言されていますし、流水自身も、「エル 全日本じゃんけんトーナメント」を書いたのが「ロングウォーク」の影響であることを明言してきました。
「エル 全日本じゃんけんトーナメント」に出てくるウサギのキャラクターがステビンズという名前なのは、「ロングウォーク」の重要登場人物ステビンズに由来します。
また、初めて告白する話としては、2007年に流水が12か月連続刊行した「パーフェクト・ワールド」シリーズの中心人物レイモンド・クォーツの名前は、「ロングウォーク」の主人公レイモンド・ギャラティに由来します。
「ロングウォーク」は、キング先生が大学生のときに人生で初めて完成させた長編小説でした。
のちにキング先生が「キャリー」で作家デビューされたあと、「呪われた町」や「シャイニング」などの大ヒットで世界的ベストセラー作家になっていくのと並行して、デビュー前にキング先生が書き上げていた「ロングウォーク」などの4作品は、「リチャード・バックマン」という別名で発表されていました。
バックマン名義の作品は最初、ぜんぜん売れていなかったのですが、「ロングウォーク」だけは版を重ねていたそうです。
そして、バックマン名義の第5作として準備していた「痩せゆく男」の執筆中に正体がキング先生だと発覚し、「痩せゆく男」はキング名義での発表となりました。
いま、流水自身も30年の経験を積んだ作家としてふり返ると、キング先生がデビュー前に書かれていたバックマン名義の4作品は、技巧が発展途上だと思える部分もあるのですが、それでも大学時代に書き上げた「ロングウォーク」からして、並の作家の力量をはるかに超えています。
流水自身が「ロングウォーク」を愛してやまないのは、まだ完成されていない原石の輝きがそこにあることが最大の理由です。
流水が大学1年生のときに完成させた人生最初の長編「ジョーカー」を、いまも愛してくださる方が多いのに似ているかもしれません。
また、「ロングウォーク」のレースを必死で歩き続ける少年たちの姿は、キング先生や流水も含めた、すべての創作者の姿とどこか重なります。
いや、創作者に限った話ではありません。
だれの人生にも当てはまることです。
かつて、流水は「カーニバル」シリーズで大量死を描き、その中で、「周囲の人が順番に死んでいくという現象は、実は、だれの人生でも必ず起きることだ。犯罪オリンピック現象は、それを加速させたに過ぎない。」ということを書きました。
一見すると、目を背けたくなるほど残酷な「ロングウォーク」ですが、実は、われわれの人生は、まさに、この「ロングウォーク」そのものなのです。
仲間ができ、励まし合い、ときには向かってくる敵たちと戦いながら、敵も味方もごちゃ混ぜの人生を、みんなで歩いて行きます。
脱落する人たちは、脱落したくて消えていったわけではありません。
いろんな要因で、彼らはレースを去ったのです。
もちろん、現実の人生では、どんどん若い世代が出てくるので、消えていった人たちが忘れられてしまうこともあります。
それでも同世代の友人知人を思い起こすと、すでに亡くなった同級生が何人もいて、今後も順番に脱落していくことが決まっているこのわれわれの人生は、まさに「ロングウォーク」です。
そして、キング先生が本作で描いたのは、死の絶望と隣り合わせだからこそ輝く、生の希望、その強烈な光なのです。
死の暗闇や悲しみの深淵との対比で、瞬間的に高まる生の輝きと喜びは、花火のよう観る者を魅了します。
映画「ロングウォーク」を観ていたら、ひとつ、思い出した話があります。
流水はかつて、映画会社のSDP(スターダストピクチャーズ)さんからの依頼で、映画原作として、恋愛をテーマにしたケータイ小説を1年連載したことがあります。
「忘レ愛(わすれあい)」というタイトルの、その清涼院流水唯一の純愛ミステリは、連載終了後に書籍化されましたが、連載中にいろいろ状況が変わって、最終的に映画化の話は頓挫しました。
その際、「なにか別のお話があれば」と言われて流水が提案したのは、実は、キング先生の「ロングウォーク」の舞台を日本に、登場人物を日本人にして描く映画の企画でした。
関係者のウケは良かったのですが、キング先生との大変な交渉も必要になりますし、その企画も残念ながら実現しませんでした。
でも、そのような企画を提案したことがあるぐらい大好きな「ロングウォーク」という作品の映画版をついに見届けることができたのは、本当にしあわせでした。
細部まで暗記しているセリフはそのままでしたし、ドラマのすべてが驚きの再現度でした。
生身の人間が演じると、処刑される場面の凄惨さが際立ち、愛着ある彼らに感情移入するとツラい面もありましたが、見事な映画化に心からの拍手を贈ります。
なお、流水はまったく知らなかったのですが、帰宅してから教えていただいた話として、映画「ロングウォーク」は8月21日からPrime Videoで見放題独占配信されるそうです。
ご興味のある方は、ご覧になってください。
原作の描写は本当に凄いので、未読の方は、復刊された原作も、ぜひ、お楽しみください。
今夜は、星海社さんの「丞相(じょうしょう)」に新たに就任された鈴木宣幸(すずき・のぶゆき)さん(清涼院流水の初代担当編集者)と太田社長が、9月5日に迫った流水のデビュー30周年をお祝いしてくださる飲み会があります。
そういう大きな節目のタイミングで、「ロングウォーク」の映画を見ることができて、本当に良かったです。
9月5日(土)当日に開催するデビュー30周年記念オンライン・イベントにつきましては、流水誕生日&JDC創設記念日の8月9日の朝に、詳細を発表予定です。
そちらも楽しみにお待ちいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
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