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クレア|日常の違和感言語化係
@kureakurea01
日常の「ん?」を文学・物語・推理・学びへ。仕事、人間関係、都市伝説、ニュース、投資、食に潜む、まだ名前のない違和感を拾い、日常と感情の翻訳をする名もなき社説執筆者です。誰かが言葉にできなかった感情を、世界中にいる誰かの心に届く物語へ。あたしは日本も世界も大好きです。
加入 September 2023
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深夜十一時四十七分。オフィスに残っていたのは、あたしと、机より高く積み上がった書類だけだった。窓の向こうでは、終電へ急ぐ人々が小さな光の粒になって流れている。「今日も終電終わったコースね……」冷え切ったコーヒーを飲み、ため息をついた。仕事が嫌いなわけではない。むしろ、頼まれたことには応えたかった。「クレアなら大丈夫」その言葉がうれしくて、断れない仕事を一つずつ引き受けているうちに、いつの間にか「大丈夫な人」でいることが、彼女の仕事になっていた。 そのとき、寝てしまい、不思議な夢を見た。ここはオフィス、給湯室の奥から小さな機械音が聞こえた。 現れたのは、古びた清掃ロボットだった。両手で大きな赤いボタンを差し出している。 ボタンの上には、ただ一言。 「押すな」 「いちばん押したくなる書き方ね」 あたしが指先で触れた瞬間、オフィスの照明が一斉に消えた。 パソコンの画面には、 「強制退勤モード」 という文字が浮かび、ロボットは散らばった書類を猛烈な勢いで棚へ押し込み始めた。最後に鍵をかけると、今度はあたしの背中を出口へ押す。 「えっ、ちょっと!? まだ終わってないの!」 ロボットは答えない。 ただ、彼女を会社の外まで運び出した。 気づけばあたしは、夜の公園にいた。 仕方なくコンビニで買ったアイスを食べながら空を見上げると、ビルの隙間に細い月が浮かんでいた。 こんな時間に空を見るのは、いつ以来だろう。 隣に座ったロボットが、小さな札を掲げる。 「明日やれ」 クレアは思わず笑った。 明日に回した書類は、確かに残っている。けれど会社は爆発していない。街も止まっていない。世界は何事もなかったように回り続けている。 「世界は、残業しなくても回ってた」 ロボットの目が、うれしそうに弧を描いた。 その夜、あたしは夢の中で初めて気づいた。 仕事を明日に残すことは、怠けることではない。自分を明日まで残すことなのだ。気がついたら、朝になっていた。 そして、あの赤いボタンの押すなは、命令ではなかったのかもしれない。頑張りすぎる人だけに向けられた、不器用な救難信号だったのである。
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