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クレア|日常の違和感言語化係
@kureakurea01
日常の「ん?」を文学・物語・音楽・学び・漫画へ。SI、仕事、人間関係、政治、投資、食に潜む、まだ名前のない違和感を拾い、日常と感情の翻訳やツッコミをする名もなき社説執筆者です。誰かが言葉にできなかった感情を、世界中にいる誰かの心に届く物語へ。あたしは日本も世界も大好きです。
加入 September 2023
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あの夜、クッパを倒したのはマリオだけではなかった。ある病院の病室に、十歳の少年がいた。長い入院で脚は細くなり、明日には大きな手術を控えていた。医者は「大丈夫」と言い、母親も「きっと元気になる」と笑った。だが大人の大丈夫ほど、子どもにとって頼りないものはない。少年は夜になると、枕元にあるSwitchの中にあるスーパーファミコンをつけた。遊んでいたのはスーパーマリオワールド、長い旅の果て、ようやくクッパ城まで来たのである。画面が暗くなり、巨大なピエロに乗ったクッパが現れた。鉄球を落とし、炎を降らせ、メカクッパを投げてくる。 少年の指は治療の影響で思うように動かず、マリオは何度も倒れた。 ゲームオーバーになるたび、少年は小さく呟いた。 「やっぱり僕には無理かな」 それがクッパのことだけではないと、あたしにも分かった。 父親は代わろうとしなかった。ただ、ベッドの横で言った。 「一度に全部勝たなくていい。次の一個だけ避けよう」 少年は再びSwitchを握った。 鉄球を一つ避ける。 メカクッパを一匹つかむ。 クッパへ一回ぶつける。 途中、空からピーチ姫がスーパーキノコを投げてくれた。少年は目を丸くした。 「助けてもらってもいいんだ」 父親は黙って頷いた。 最後のメカクッパが命中すると、巨大なクラウンは大きく揺れ、クッパは夜空の向こうへ消えた。ピーチ姫が救い出され、画面に花火が上がった。 その光を受けながら、少年は泣いた。 勝ったからではない。 怖いままでも、最後まで進めたからである。 翌朝、手術室へ向かう直前、少年は母親へこう言った。 「僕のクッパも、一回ずつ倒してくる」 手術後には長いリハビリが待っていた。昨日できたことが、今日はできない日もあった。それでも少年は、自分の身体を敵とは呼ばなかった。 起き上がる。 一歩だけ歩く。 疲れたら、誰かの手を借りる。 あの夜の戦いと同じであった。 半年後、あたしが、取材の前に病院の中庭で昼寝していると、少年が松葉杖をついて現れた。足取りはまだ頼りなかったが、胸にはマリオの絵が描かれたシャツを着ていた。 少年はあたしの前にしゃがみ、小さな羽根の絵を見せた。 「まだ飛べないけど、前には進めるよ」 あたしは思う。 希望とは、苦しみが消えることではない。 次に降ってくる鉄球を、もう一度だけ避けてみようと思えることである。 あの晩、マリオはピーチ姫を救った。 しかし少年が本当に救い出したのは、病気にさらわれかけていた自分の明日だった。 エンディングとは、冒険の終わりではない。 もう一度、生きる側のコントローラーを握り直す場面なのである。 ※特定を防ぐために、内容は大幅に変えてます。あの時の人?って思っても人違いなのでご安心ください。
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