あたしはある食品会社の商品開発室を訪ねた。若い社員が、冷凍コロッケの五個入りを六個入りに変更したいと提案していた。上司は首をかしげた。「原価も容器も変わる。五個で何か問題があるのか」青年は一枚の古い写真を見せた。母親と五人の子どもが、狭い食卓を囲んでいた。父親を亡くしてから、母は五個入りのコロッケを買った。子どもたちへ一個ずつ配り、自分はいつも、「揚げ物は胃にもたれるから」と言って食べなかった。
末の妹だけは、それを信じていた。成人してから、青年は母が台所でパンの耳を食べていたことを知った。
六個入りの商品が発売された日、青年は実家へ持って帰った。母は笑った。
「今は一人暮らしだから、六個も食べられないわよ」
青年は冷凍庫へ入れず、フライパンへ六個並べた。
久しぶりに兄弟全員を呼んでいたのである。
食卓で母がコロッケを取ろうとすると、五人の子どもが一斉に言った。
「今日は、お母さんから」
母は笑いながら泣いた。
企業にとって一個は原価である。しかし食卓にとって一個は、誰かが我慢しなくてよい理由になる。
六個目のコロッケが必要だったのは、商品棚ではない。あの日、母だけが人数に数えられなかった食卓だったからじゃないかしら?
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