BAR「グラスとコトバ」は、主催のサントリーによる丁寧なインサイト調査の痕跡が感じられて面白かった。
ぜひ、マーケ視点でも感想を綴っていきたい。
いまの気持ちを「コトバ」にし、そこからバーテンダーにカクテルを作ってもらうというこの企画。
ヒット曲の歌詞や、作家などの著名人によるフレーズなど珠玉のコトバたちに、一杯の酒が出逢う。
もっと気軽にバー文化を体験してほしい、ちょっとした日常にバーを加えてほしい、そんな思いで企画したイベントなんだとか。
そんな思いに共鳴し、全国からバーテンダーが集まっているという。
「このイベントのために有給を取った」と語るバーテンダーの姿に、この企画が現場から愛されていることが伝わってきた。
広告では生み出せない熱量とは、こういうものなのかもしれない。
さらに、帰り際に一包みのパンフレットを渡された。
開くと、参加バーテンダーが普段働いている店舗リスト、そして一枚のコースターが同封されていた。
『裏面の余白に「今の気持ち」をご記入ください。あなたの気持ちに寄り添うカクテルをご用意させて頂きます』
実は先日、『世界のビジネスエリートが身につける教養 文化人類学』を読んでいて、サントリーの商品開発について興味深い事例を知った。
缶酎ハイ「−196」の新シリーズ「果物がおいしいチューハイ」を開発したときの逸話だ。
これだけ色々な商品やサービスが溢れた時代、アンケートや売り上げ数値など定量化できる指標だけでは見えない側面があるとの思いから、サントリーではある新しい調査手法を採用したという。
文化人類学者が用いる「参与観察」と、定量的な調査を混ぜ合わせた混合的な調査方法だ。
ひとつの異文化を調査するとき、文化人類学者は実際に何ヶ月も何年もその集団と共に過ごし、そこで得た観察結果をレポートする。
この商品開発では、実際に消費者の家を訪ね、一緒に何度かお酒を飲むことでインサイト分析を深めたんだとか。
イベントは一夜限りで終わる。でも、わたしの中には「今度あの店へ行ってみよう」という、小さな習慣の種が残った。
消費者には、商品を売るのではなく、文化を日常へ持ち帰ってもらう。
業界に向けては、広告費では届かない形の浸透を残す。
その二軸設計の巧みさに、マーケターとして唸ってしまった。
わたし自身、よく『白州』や『六』を見つけるたびに飲んでいる。
お酒に、そしてバーという文化に、触れる最初の一歩をどう作るか。
このイベントでサントリーが設計した答えは、商品を売り込むのではなく、日常に「ハレ」を差し込むきっかけを提供することだった。
女性一人でバーに行くと、正直あまり愉しくないことも多かった。でも、リストを信じて出かけてみようと思えた。お気に入りの服を着て、そんなちょっとだけ特別な夜に。
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