「愛と憎しみは、併存する」
わたしが幼いころ、家族からひどいことをされた。
憎らしかった。
でも憎みきれなかった。
憎みきれば楽だとわかっていた。
あの人が悪い。
私は被害者だ。
そう思えたら、
どれだけ楽だっただろう。
でも、できなかった。
それは許したということではない。
傷がなかったということでもない。
ただ、
ひとりの人間を、
悪だけにできなかった。
だから私は、
頭だけで、
「全部あの人のせい」
そう思うことにした。
そうしないと、
生きていけなかったから。
怒りは、
私を守ってくれた。
あの人は悪い人。
私は傷つけられた人。
そう整理することで、
ようやく立っていられた。
あるとき、
昔は見えなかったものが見えるようになった。
あの人は、
私を傷つけた。
そして、
それだけではなかった。
横に並んで話を聴いてくれた。
私を危ないことから守ってくれた。
傷つけただけじゃなかった。
愛してくれていた。
その現実を受け入れることは、
憎み続けるより、
許すより、
もっとつらかった。
失ったものも、
受け取ったものも、
どちらも現実だったから。
あの人を悪者にし続けることができない。
でも、
傷つかなかったことにもできない。
愛していたことも、
憎んでいたことも、
どちらも本当だった。
その重さに耐えられるようになるまで、
ずいぶん時間がかかった。
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