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クレア|日常の違和感言語化係
@kureakurea01
日常の「ん?」を文学・物語・推理・学びへ。仕事、人間関係、都市伝説、ニュース、投資、食に潜む、まだ名前のない違和感を拾い、日常と感情の翻訳をする名もなき社説執筆者です。誰かが言葉にできなかった感情を、世界中にいる誰かの心に届く物語へ。あたしは日本も世界も大好きです。
参加 September 2023
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「お嬢さん、それを全部ひとりで食べるのかい?」老いた板前が、呆れたように尋ねた。あたしの前には、鮪、雲丹、蟹、いくら、鮭、まるで海そのものを切り分けたような料理が並んでいた。「はい。今日は、ひとりで食べます」その日は、あたしの二十五歳の誕生日だった。幼い頃、叔父が小さな漁船に乗っていた。暮らしは決して豊かではなく、食卓に魚が並ぶことさえ少なかった。不思議に思ったクレアが尋ねると、叔父はいつも笑った。「海のごちそうはな、待っている人のところへ先に届けるんだ」 叔父は獲れた魚を市場へ売り、その金であたしの学用品を買った。自分は缶詰で酒を飲みながら、 「いつかクレアが大人になったら、海を丸ごと食わせてやる」 そう約束した。 だが、その約束が果たされる前に、叔父の船は嵐の夜から戻らなかった。 クレアは鮪を一切れ口へ運んだ。 脂が舌の上でほどけた瞬間、なぜか涙が落ちた。 「おいしい?」 誰もいない向かいの席から、叔父の声が聞こえた気がした。 「うん。でも、おじさんの缶詰のほうが、おいしかったよ」 老いた板前は、何も聞かなかった。ただ黙って、小さな盃を向かいの席に置いた。 あたしは、蟹の脚を一本、その皿へ載せた。 「海を丸ごと食べるには、ひとりじゃ多すぎるね」 それから彼女は少し笑って、空席に向かって箸を差し出した。 豪華な料理とは、高価な食材が並ぶことではない。 もう会えない人と、もう一度食卓を囲めることなのだ。 その夜、あたしは海をひとりじめした。けれど最後まで、ひとりではなかった。 ※これは特定されないように、実体験を大幅に改変してます。あの時の女の子?と思っても、人違いです。
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