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正木伸城
@nobushiromasaki
イベントプロデューサー・マーケター・経営者|他、約20の事業に取締役や顧問として参画|常に3冊持ち歩く活字好き|仏教思想研究家|哲学愛好家|『監獄の誕生』が座右書|うつ病→精神病棟→36歳から本格的に社会人デビュー →3社を経て現職|著書は共著あわせて3冊既刊|献本書評も受けつけています|取材・仕事の依頼はDMにて📩
参加 September 2018
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脳は細胞のかたまりに過ぎない。そして当然ながら、個々の細胞には意識も知能もない。読み書きの能力もない。なのに、細胞がかたまりになったら、意識が生まれ、思考や知能が生まれ、読み書きができるようになる。なぜ?――この謎はいまだ解明されていない。だが、そこに革命的な仮説が出てきた。👉 それが、この本の著者・ホーキンスの「1000の脳」理論である。それは人間の脳の構造と機能に関する理論で、ヒトの知性の基礎を理解するための仮説である。彼は脳を「古い脳(新皮質以外)」と「新しい脳(人類が進化させてきた新皮質)」に分ける。人間の脳は感覚器官と直接つながっている古い部分(脳幹や辺縁系)と、思考・意識・意思決定・言語・創造などにつながる新しい部分があり、古い脳は生存のための基本的な機能と感情を担当し、人間の本能的な反応や感情や反射などに深く関与し、新しい脳はより複雑な思考、理解、計画などの高度な認知機能を提供し、人間の意識的な活動と判断に関わっているという。 そして、新しい脳は、感覚器官とは直接つながっていないものの、古い脳を通して刺激が伝わってくるようになっているそうだ。 これを踏まえた上で、著者は本書で、新しい脳がどのように機能しているかに焦点を当てて理論を構築し、それを提示する。 それは、ざっくりとまとめて言えば、新皮質全体に多次元の座標系が存在し、知覚した情報がさまざまな場所にマッピングされ(一つの情報も数千の場所に分散して保存される)、それらの関係性を整理するモデル化が数多く行われ、脳内に世界モデルが構築される。それが絶えず学習・更新されていくことで、新しい脳が機能を発揮している、という仮説だ。 たとえば、脳は「予測」を行う。草むらがガサガサと鳴った時に、思わず身構えるように。だが、この「予測」というなかば本能的な機能を脳はどう実現しているのか? この理解も相当に難しい。カギは「座標系」である。 「今、あなたの目の前にコーヒーカップがあるとする。それをつかもうと手を伸ばすとき、コーヒーカップのモデルを持つ何千ものコラムが、次にどんな入力があるかを予測している。手ざわり、重さ、温度、机に戻した時に立てる音……。あなたの知覚とは、コラム間の「投票」によってたどり着いた合意である」 予測をするには、まず「世界はこういうものだ」というモデルを学習する必要がある。たとえばコーヒーカップという物体がどういうものかを知るのに、一点に触れたままでは何も学習できない。指を動かすことによって、指で感じるものがどう変わるかを知ることが学習だ。それを経ると、カップのふちや底や取っ手のような特徴の位置関係、つまり物体の構造を記憶することにつながり、その記憶を収めるために脳が地図に似た座標系を作り出すという。しかもその座標系は、新皮質を構成する何千何万という「皮質コラム」それぞれが作り、それをもとに皮質コラム間の連携などによって予測が行われるのである。 「皮質コラム」とは、新しい脳におけるニューロンの層のような構造のことである。それが人間の高次認知に関係していると著者は述べている。彼が独創的なのは、皮質コラムが脳の基本的な「情報処理単位」になっていると指摘している点だ。この皮質コラムが同時に座標系を作り出しているがゆえに、彼の理論は「1000の脳」と呼ばれる。 さて、ここで興味深いのは、座標系はコーヒーカップのような外の世界の物体を認知するためだけでなく、人が直接感知できない知識を整理するのにも使えるという点である。政治や数学、国家、民族といった概念についての知識も、すべて座標系に保存される。そのため、物理的に空間内を歩きまわるのと同じように、座標系内で、概念から概念へと動いていくことができる。それを、ぼくらは「思考」と呼んでいる。 数学者は方程式という数学の概念を座標系にきちんと保存しているため、似たような方程式に遭遇した時、どういう演算でその座標系内を動きまわればいいかがわかる。一方、数学に疎い人の場合、脳が座標系を作っていないので、方程式を解こうとしても数学の空間で迷子になってしまう。地図がないと森で迷子になるのと同じだ。 このように脳の働きを動的にとらえ、いっけんすると同じように見えるコラムがそれぞれに異なる機能を果たすよう領域を役割分担し、実はそれらが共通の基本アルゴリズムを実行しているのだとする理論が「1000の脳」理論である。 ちなみに、それぞれの皮質コラムはそれぞれ独立して学習を行っているため、各コラムは全て独自の世界モデルを持っている。他方、皮質コラムごとの世界モデルでの知覚は横方向の繋がりで共有されていて、ある種の「投票」のようなかたちで結果的に統合されたひとつの世界像を紡ぎあげる。それをぼくたちは「感じている」と感じるのだという。これを要約すれば以下のようになる。 ・特定のアイテムの知識は、数千もの相補的なモデルに分散している ・複数の感覚入力は、コラムが行う「投票」によって単一の知覚に結びつけられる ・何を知覚するかは、安定した投票ニューロンにもとづいていて、各コラム内の変化や活動は意識にはのぼらない 脳が座標系を作るのには利点がある。それは、「構造」を理解するのに役立つ点だ。座標系のおかげで、脳は何かの構造を学習することができる。コーヒーカップが一個の物であるのは、空間での相対的配置が決まっている一連の特徴と面で構成されているからだ。同じように、顔は鼻と目と口が相対的な位置に配置されたものである。相対的な位置と物体の構造を特定するには、座標系が必要なのだ。座標系とは、そんなコーヒーカップと顔という異なるものを「構造」として取り出し、互いの類似性をたゆたうようにしながらコーヒーカップの認知にも人間の顔の認知にも「構造」を役立てるために必須の要素である。これがあることで、脳は思考をコスパ良く進めている。 また、座標系を使って物体を定義することによって、脳は物体全体をいちどに処理することができる。たとえば、車には配置が相対的に決まっているさまざまな特徴がある。人はいったん車を学習すれば、視点を変えたら車がどう見えるか、あるいはひとつの次元を引き延ばしたらどう見えるかといったことを想像することができる。この芸当をなし遂げるのに、脳は、ただ座標系を回転させたり引き延ばしたりするだけで足りる。そうするだけで、車のあらゆる特徴が回転し、イメージとして引き延ばされる、そんなことが「構造」による認知によって実現できるのだ。 ちなみに、本書後半はホーキンスは「未来」を熱く語る。たとえば、彼は「現在のAIの知能は人間には及ばない」と述べる。確かにAIは限定された目的についてディープラーニングを行い、人間より速く正確に判断することはできる。しかし、基本的には指示がなければその後も学習し続けるということはない。複数の目的を果たしたりすることもできない。その意味で、人間に及ばない。 では、人間のような知的機械を作ることは可能なのだろうか。ホーキンスは「知的機械は人間に似たものにはならない」と答える。知能を作るには新皮質に似たものを作ればよいが、新皮質は目標や行動原理を持たず、それらは古い脳に由来するものだからだ。しかし、座標系というアイデアを取り入れることによって、これからの知的機械は専用型から汎用型に進化するだろうとも述べる。 ご関心のある方は、ぜひ本書を直に読んでみてほしい。 『脳は世界をどう見ているのか』 著者:ジェフ・ホーキンス 発行:早川書房
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