夏は夜。みたままつりの頃なんて、さらなりかも。
あの頃は蛍だったものが、今は提灯になって宵を漂っているようだった。
終盤の頃、妹とその子供とともに祭りを訪れていた。
「ちょっと、話さない?」
ふと、湿り気のある風が、首元を這うように撫でた。
石畳に座る妹の表情は妙に暗がりに隠れていて、祭りの灯りも届かない。
彼女はぽつりぽつりと、話し始めた。
「東京のおばさんが、亡くなったの」
話は聞いていた。
高度経済成長の頃、モーテル経営から身を起こし、土地を買い集め、大きな財産を築いた人だった。
妹の結婚式のときに一度会った。
丁寧な編み目のジャケット、胸元の上質そうなブローチの耀きをなぜかよく覚えている。
「そうだったんだね、子供たちにも良くしてくれたよね。残念だったね」
「遺産をね。どうするか、って話してるみたいで」
自分でも気づかないまま、呆けちゃってたんだって。
遺言書もなかったみたい。
一生かけても到底使いきれないほどの財産を、血縁関係もほとんどない、ほぼ赤の他人が攫っていくことになりそうなの。
「あんなにお金を持ったまま、一人で死んでいったなんて、なんだか悲しすぎて」
彼女はそう言うと、提灯の灯が届かない暗がりへ視線を落とした。
薄闇に溶けていった言葉をたぐり寄せながら、わたしは言う。
「お金が欲しかったわけじゃない。でも、わたしたちのこと、信用できなかったのかなって」
「そんなことは、ないと思うよ。身に余る財産は、ときどき目をくらませてしまうものだから」
「……そうね。もしそうなったら、わたしも捨てられてたかもしれないものね」
雑踏が、急に遠くなった。
祭囃子も、車のクラクションも、どこにも捕らえられないぐらい、遠くなった。
そんなことないよ。
雑踏の遠さに掬い取られた言葉が、暗がりにそのまま漂っていた。
「ママ、見て」
しばしの沈黙のあとだった。
舌足らずの明るい声がした。
無邪気な笑顔とともに、弾んだ靴音が響く。
手持ち提灯を振り回しながら、はしゃいだ様子で息子が寄ってきた。
柔らかな光が、和紙越しに鮮やかな青色になって呼吸をするように揺れている。
光の反射で、大きくて長い影が伸びていた。
それを踏み越えるように、彼はすいすいと人混みの中を動いていく。
にっこりと、彼女が笑う。
「待って、待って」
提灯を揺らしながら、小さな背中は人波へ溶けていった。
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