休日出勤の帰り道。
夕立の名残を含んだ空気を、せわしなく行き交う人いきれが、よりいっそう熱くしていた。
ふいに、遠くで何かが爆ぜる音がした。
「……花火だ」
気づけば、ひとり呟いていた。
ビルの隙間が、ふっと明るむ。
赤、青、緑、金色。一瞬のうちに折り重なった光が、咲いたそばから煙へほどけていく。
その跡を追いかけるように、また新たな大輪がひらき、宵空を何度も塗り替えていた。
ああ、きっと最後に花火を見たのは——
父の大きな手。紙パックのジュース。浴衣姿の、小さなわたし。
記憶の断片がふっと浮かび、花火の煙とともに夜へほどけていった。
ひときわ大きな音が、街の上空に響いた。
街路樹も、看板も、行き交う人の横顔も、遠い光に一瞬だけ照らされる。
缶のお酒を片手にガードレールへ凭れた恋人たちは、そっと指を絡めていた。
ランニングシャツ姿の男性も足を止め、思わず後ろを振り返っている。
そんななか、足元から向けられた黒目がちな瞳と目が合った。
花火に見惚れる飼い主のそばで、散歩中の犬たちがちんまりと佇んでいる。
首元に結ばれた小さな灯は、赤や青、緑へと、一定の間隔で明滅していた。
宙では花火が咲き、足元では小さなエレクトリカルパレードが瞬いている。
思わず口元が綻ぶ。
一日じゅうヒールに閉じ込められていた足まで、少しだけ軽くなった気がした。
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