一生に一回あるかないかのプレーを練習すると、なぜ視野が広がるのか?
横浜高校と花巻東の最後のプレーで印象的だったのは、三塁手がライトからの送球を待って三塁走者にタッチしようとしたのではなく、最初から前に出て、打者走者の一塁オーバーランを狙っていたことです。
結果を見てから一塁へ投げたのではなく、ボールが自分のところへ来る段階ですでに「次に起こること」を準備していたように見えます。
こうしたプレーを見ると、強豪校が一生に一回あるかないかの状況まで練習する意味がよく分かります。
人間は、初めて遭遇する状況では、その場で大量の情報を処理しながら選択肢を探します。
しかし過去に似た状況を経験していると、「この形になったら、次にこういうことが起こる可能性がある」というスキーマが形成されます。
今回でいえば、ライト前ヒット、三塁への送球、走者が三塁へ進むという情報だけでなく、そのプレーを見ている打者走者が一塁から離れる可能性まで、選択肢として持っていたと考えられます。
ここで重要なのが、いわゆる「視野の広さ」です。
視野が広いというと、単純に広い範囲を目で見ているように思いますが、スポーツではそれだけではありません。
脳が何を探す準備をしているかによって、同じ景色を見ても拾える情報が変わります。
一塁でのオーバーランという選択肢を知らなければ、視界に入っていても重要な情報として処理されないかもしれません。
逆に練習で一度でも経験していれば、「ここもアウトになるかもしれない」と注意を向けることができます。
これは予測的注意や、見えた情報と動作を結びつける知覚―行為カップリングにもつながります。
だから珍しいプレーを練習する目的は、そのプレーを本番で一度成功させることだけではありません。
脳の中に「野球にはまだこんな選択肢がある」と教えることです。
経験していない選手は、ボールが来てから考える。
経験している選手は、ボールが来る前から複数の続きを持っている。
一生に一回のプレーを練習することは、その一回のための練習ではありません。
普段のプレーで見つけられる選択肢そのものを増やし、結果として「視野の広い選手」を作る練習なのだと思います。
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【試合前に片目を使う理由】
チャンスの場面になると、普段は打てるボールなのに差し込まれたり、芯を外したりする選手がいる。
その原因の一つは、プレッシャーによって脳の空間認識が乱れること。
打撃ではボールのスピードだけでなく、「どこにあるのか」「どのくらい手前なのか」という奥行き情報を正確に捉える必要がある。しかし緊張が高まると視覚情報の処理が不安定になり、タイミングやミートポイントにズレが生じやすくなる。
そこで試合前のアップとしておすすめなのが、Monocular Training(単眼トレーニング)。
片目を閉じた状態でボールのキャッチやトスを行い、奥行きを判断する能力を刺激する。人間は普段、両眼視によって距離を認識しているが、あえて片目にすることで脳はより多くの視覚情報を使って空間を把握しようとする。
この刺激を入れておくことで、打席で必要となる距離感やミートポイントの認識が高まりやすい。
メンタルを強くしようとする前に、まずは感覚入力を整える。
プレッシャーに勝つのではなく、プレッシャーの中でも脳が正しく距離を測れる状態を作ることが大切。
チャンスで芯に当てられる選手は、技術だけでなく「見え方」の準備もしている。
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