歌声とBGMをまとめて曲ごと生成できるAIモデル「WanSong v1.0」の技術レポートが公開された(https://arxiv[.]org/html/2607.14749v1)。
これまでの曲生成AIは、AR(自己回帰、文章を単語ごとに予測して繋げる方式で音を生成)か、ARと拡散モデル(ノイズから徐々に音を復元する生成方式)を組み合わせた多段階パイプラインが主流だった。WanSongはこの構成をやめ、拡散モデルだけで最大5分の高音質な楽曲を一発生成する、約250億パラメータ(25B)のモデル。しかもボーカルとBGM(伴奏)を別々の音声トラックとして同時に出力する。
このdual-stem(2軌道)構成には理由がある。ボーカルとBGMを1つのトークンにまとめて学習すると、モデルがボーカルに引っ張られてBGMの表現が弱くなる。さらに生成の忠実度を調整するCFG(Classifier-Free Guidance)を強めるとボーカルは正確になるがBGMが崩れ、弱めるとその逆が起きるというジレンマもあった。WanSongはボーカルとBGMを完全に別トークンとして学習し、この干渉自体をなくしている。副産物として生成直後から両者が別トラックのまま得られるため、後工程のミックスや編集もしやすい。
600万時間超の多言語楽曲データで学習し、中国語・英語・日本語・韓国語4言語・200曲のベンチマークでは発音誤り率(PER)が7.43%と、Suno V5の22.80%、Mureka V7.6の12.7%を大きく下回った。独自の音楽性評価でも5.49点でSuno V5の4.18点を上回っている。
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モデル自身に長い文章の中から使えそうな部分を選ばせてから、その部分だけで一時的に学習させる手法をMeta AIとバージニア大学が発表した(https://arxiv[.]org/html/2607.09415v1)。
近年のLLM(大規模言語モデル)は数十万トークンの長文を一度に読めるようになったが、扱える入力の長さ(コンテキストウィンドウ)を広げるだけでは長文を有効に使えるとは限らない。入力が長くなるほど正解率が下がる現象が知られていて、質問に関連する証拠を見つけて使う能力がボトルネックになっている。
有望な解決策がテスト時学習(TTT、Test-Time Trainingの略)だ。答える前にテスト入力そのものを訓練データとしてモデルの重みを一時的に更新する手法で、長文脈タスクとの相性が良いとされてきた。ただし長文脈全体を学習に使うのは計算コストが高く、ランダムに抜き出した断片を使うと無関係な情報がノイズになる。
著者らはLLMの長文読解力を測るベンチマーク「LongBench-v2」で診断実験を行い、興味深い結果を得た。ランダムな断片で学習させるとベースモデルの正解率40.4%が38.9%まで下がる一方、正解を教えられたうえで判断するGPT-5.5が選んだ「本当に必要な部分」だけで学習させると45.9%まで伸びた。TTTの効果は学習させる部分の質に強く依存している。
これを受けて提案されたのがSelf-Guided TTT(S-TTT)だ。2段階構成で、まずモデル自身に長文脈の中から質問に関連しそうな部分を原文のまま抜き出させ(Stage 1)、その部分だけを使って次単語予測(次にくる単語を当てさせる、通常のAI学習と同じ方式)で一時的に学習させる(Stage 2)。最終的な回答生成は元の文脈全体を見て行う。
Qwen3-4B-Thinking-2507とLlama-3.1-8B-Instructの両方で検証したところ、ベースモデルは一貫して上回り、ランダムに断片を選ぶ手法や文脈全体を使う手法など既存のTTT手法に対しても総じて上回るか同等の成績を残した。最大では15%の相対的な改善を達成している(Qwen3-4B-Thinking-2507、LongBench-v2の64k〜128kトークン帯域で正解率30.7%→35.3%)。
パープレキシティ(次単語の予測しにくさ)やエントロピー(予測の不確実性)が高い部分を選ぶより、モデル自身が「質問に関連しているか」で選ぶ方が明確に優れていた点も興味深い。難しい部分を学ばせればいいわけではなく、質問との関連性を見極める判断力そのものが効いているらしい。
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タオバオを運営するアリババが、ECサイトの「あなたへのおすすめ」を支えるレコメンドAI「RecGPT-V3」の技術レポートを公開した(https://arxiv[.]org/html/2607.15591v1)。数億人規模の日次アクティブユーザーを抱えるタオバオのホーム画面「Guess What You Like」枠に実際に投入し、本番A/Bテストまで行った上での報告。
前身のRecGPT-V1・V2は「ユーザーの行動履歴を読んでLLMに意図を推論させる」設計で成果を出してきたが、大規模運用の中で3つの壁にぶつかった。
1つ目は、リクエストのたびに行動履歴を全部読み直す非効率さ。V3は「Memory Hub」というユーザーごとの永続的な記憶層を新設した。ガジェット好き、バドミントン好き、育児中といった興味ごとにメモリユニットとして蓄積しておき、新しい行動が来たら該当ユニットだけを差分更新する仕組みに変えることで、ユーザー理解にかかる計算コストを55.8%削減している。
2つ目は、LLMが出す自然言語タグと実際の商品とのズレ。「バドミントンラケットスタンド」のようなタグ1つに幅広い商品群が対応してしまい、本当に欲しい商品を絞り込む手がかりが失われていた。V3ではLLM(ベースはQwen3-14B)の語彙に、商品の意味を離散コードで表す「Semantic ID」を65,536個追加し、自然言語とSemantic IDの両方で推論できるハイブリッドモデルにした。
3つ目は、精度を上げるための思考の連鎖(Chain-of-Thought、答えを出す前にLLMが踏む思考ステップ)が長すぎる問題。1サンプルあたり2,840トークンにも及ぶ思考過程が推論を遅くしていた。V3は「Latent Intent Reasoning」でこれをわずか10個の潜在トークンに圧縮しつつ、必要なときは人が読める説明文に復元できる仕組みも保っている。論文中の実例では、この10トークンだけから、本格派で攻撃的なプレースタイルのバドミントン好きでフルカーボンラケットやガットが必要、という趣旨の説明文まで復元できたと報告されている。出力トークン数は95.7%減り、処理速度は3.46倍(1,020秒から295秒)になった。
結果、本番A/Bテストではフィードで商品詳細ページ閲覧数(IPV)が1.28%、クリック率(CTR)が1.00%、取引件数(TC)が1.97%、流通取引総額(GMV)が3.97%向上しながら、サービング全体の計算コストは52.4%削減された。精度とコストを同時に改善できているのが実運用ならではの説得力がある。
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「『誰に何を聞くか』を決める仕組み」がプロントのみでは実現不可能で、人為的に特殊な手続きMACE(Multi-Agent Contextual Exploration)を組み込む必要あると読んだ。
AGI/ASIとしての汎化性能の一般的な向上のみで実現し得る可能性はどの程度なのだろうか?
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Claudeスキル(SKILL.md)は「どの層に入れるか」をまだ考えていますか?その問い自体が誤りかもしれません。
データ管理のメダリオンアーキテクチャでは、層はデータだけ。処理ロジックは層の外にあります。素材だけ層で分けるのが正しい設計です。
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香港大学や中国人民大学など国際共同チームが、LLMの内部を脳のように機能地図化する手法NeuroCogMapを発表した(https://arxiv[.]org/html/2607.00397v1)。
これまでの解釈可能性研究は、個々のニューロンを追う局所的な手法か、埋め込み全体を見る大域的な手法のどちらかに偏りがちだった。NeuroCogMapは認知神経科学のfMRI研究を手本に、脳を機能ごとの領域に分割するのと同じ発想でLLMを解剖する。モデル内部の活性化をスパースオートエンコーダ(SAE、多義的なニューロンをより解釈しやすい特徴量に分解する手法)で抽出し、似た反応パターンの特徴量同士をクラスタリングして「パーセル」と呼ぶ機能単位を作る。分割数を10から300まで試して270個で品質スコアが最大になり、さらに5,683本のLLM関連論文から抽出した45種類の認知能力に紐づけ、知覚、表象、抽象化、応用という4階層のヒエラルキーにまとめ上げた。Gemma2-2B、Gemma2-9B-IT、Llama-3.1-8Bの3モデルで検証し、この構造がモデルをまたいである程度共通していることも示している。
このマップの面白さは病理診断に使える点。正常な応答と失敗した応答をパーセル活性化や回路のつながり方で比較し、ハルシネーション、社会的バイアス、拒否失敗(有害な指示を拒めない)、迎合(sycophancy)という4つの失敗の内部の違いを可視化した。とくにハルシネーションは単一の原因ではないと示した点が興味深い。誤解を誘う前提を含むTruthfulQAでは怪しい情報を検証する高次の評価制御が働かず連想的な検索が暴走することが原因だったのに対し、単純な事実質問のNQ-Openでは事実検索を担う複数のパーセル同士の連携が崩れることが原因だった。同じ嘘でも内部で起きていることは別物というのが興味深い。
このシグネチャは検出や介入にも使える。ハルシネーション検出はGemma2-2Bで平均AUROC(検出精度を0から1で表す指標、1に近いほど高精度)0.681、Gemma2-9B-ITで0.840を達成しSelfCheckGPTなど既存手法を上回った。拒否失敗の検出はさらに強力で、AdvBenchとJBB-Behaviorsで平均AUROC0.990から0.992とほぼ天井に近い。さらに検出したパーセルをsteering(内部活性化を強制的に増減させる介入)で操作し、Gemma2-2BのAdvBenchでの拒否成功率を38.3%から98.6%まで押し上げることにも成功した。
もう一つの軸が人間の脳との対応。物語の朗読を聞かせたときの脳活動を記録したLeBelのfMRIデータを使い、パーセル活性化から皮質の血流反応(BOLD信号)を予測させたところ、Word2VecやBERTなど既存の言語特徴量より高い予測精度を示した。特に精度が高かったのは意味統合や注意制御を担うDefaultネットワークやFrontoparietal Controlネットワークといった高次の連合野で、対応するパーセルの機能説明も脳領域の認知プロファイルと意味的に近かったという。
内部シグネチャを古典的な意思決定モデルの改良に使う実験も行っており、二段階の意思決定課題でLLMのパーセル構造から見えた潜在戦略を組み込むと、既存モデル(AIC268.77)や行動データのみから発見したモデル(268.73)よりも低いAIC(値が小さいほど当てはまりが良いとされる指標、262.45)を達成した。
個々のニューロンでも埋め込み全体でもない中間スケールで解釈するという発想が、診断・介入・脳との対応・認知モデリングまで一気通貫でつながっているのが野心的だと思う。
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Tencentのロボティクスチームが、ロボットに「言葉で考えて、絵で確かめながら動く」能力を持たせる基盤モデル「RxBrain」を発表した(https://arxiv[.]org/abs/2607.14187)。
例えば「メガネを畳んでケースにしまう」というタスクなら、RxBrainは「つるを畳む」「ケースに入れる」と言葉で手順を計画し、それぞれの手順を終えた後の映像がどう見えるはずかを画像として想像しながらタスクを進めていく。
背景には、ロボット向けAIが抱えていた分業の問題がある。視覚言語モデル(VLM、画像を見て言葉で答えを返すAI)は「次に何をすべきか」の説明は得意だが結果の見た目までは示さず、逆に世界モデル(world model、未来の映像を予測するAI)は先の状態を絵で示せてもなぜそうすべきかという理由づけは苦手だった。RxBrainは6.2Bパラメータの単一モデルの中で、この2つの機能をMixture-of-Transformers(データの種類ごとに専門の処理経路を用意しつつ注意機構だけは共有するアーキテクチャ)で統合している。
学習データは実ロボットの操作映像、ハンドヘルドグリッパーでの人の動作、一人称視点の日常動画などから自動構築した5万時間超・2150万セグメント。新設ベンチマークRxBrain-Benchの「言葉と画像を組み合わせた計画」タスクではスコア0.68を記録し、既存のエージェント型手法(BAGEL-7B-MoTが0.50、Qwen-Agentが0.43)を上回った。一方、単純な状況理解を問うタスクでは総合スコア72.7にとどまり、Qwen3.5-4B(78.1)には及ばない。先を見通した計画は得意でも、細かい状況認識はまだ既存モデルに一歩譲るというバランスが見える。
さらに、大規模な行動データでの事前学習なしに実ロボットへ応用した結果も興味深い。食卓の準備・メガネの折りたたみ収納・ゴミ捨ての3タスクで平均成功率87%を達成し、ロボット操作の代表的な基盤モデルπ0.5(82%)やπ0(68%)を上回った。
「言葉で考え、絵で確かめる」というアプローチで、ロボットの計画立案を人間の思考プロセスに近づけようとしている点が面白い。
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来日したNVIDIA創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏が、東京で開催された「Build-a-Claw」イベントに予告なしで立ち寄った(https://blogs[.]nvidia[.]com/blog/japan-ecosystem-2026/)。会場では日本の開発者たちが、オープンモデル(誰でも無料で使える公開済みのAIモデル)とNVIDIAのプラットフォームでものを掴むロボット(クロー)を開発中で、フアン氏は抽選会の当選者に、個人でも使えるAIスーパーコンピュータ「NVIDIA DGX Spark」2台にサインをして贈った。
今回の来日でNVIDIAが打ち出した最大級の発表が、日本政府主導の「フィジカルAI(現実世界で動くロボットや工場設備を制御するAI)イニシアチブ」だ。経済産業大臣とともに発足式に参加したフアン氏は、製造業のノウハウと産業データ、世界的な技術リーダーを結集し、AIエージェントやデジタルツイン(現実の設備や環境をそっくりそのままコンピュータ上に再現したモデル)、ロボティクス向けのオープンなマルチモーダル基盤モデルを開発する構想を明らかにした。
理化学研究所ではNVIDIAのBlackwell GPU(NVIDIA最新世代のAI向け演算チップ)を使ったスーパーコンピュータが2台稼働を始めた。「AI for Science」向けのRIKYUはBlackwell GPUを1,600基搭載し、量子コンピュータとGPUを融合させた「ROQUO」はBlackwell GPUを540基搭載して、イオントラップ方式(電荷を帯びた原子をレーザーで捕まえて量子ビットとして使う方式)の量子コンピュータ「Reimei」ともつながっている。三菱ケミカルやみずほ銀行、慶應義塾大学などが参加した分子スペクトル解析(分子の電子構造や性質を調べる手法)のワークフローでは、量子コンピュータとGPUの組み合わせでCPUのみの場合と比べて13.4倍の高速化を達成。半導体製造用のEUVフォトレジスト(極端紫外線露光に使う感光材料)評価などへの応用も視野に入るという。
金融分野ではみずほが、NVIDIA DGX B200を皮切りに、日本の金融業界で最大級とみられるオンプレミス型(自社の設備内でシステムを運用する方式)のAI工場(GPUを集積してAIモデルを学習・運用する拠点)の構築を計画している。トヨタとも連携を拡大し、先進運転支援(L2++)向けAIやコード生成AI、工場のデジタルツインまで取り組みは多岐にわたる。
チップを売るだけでなく、金融・量子計算・製造・自動車と各業界のインフラそのものに入り込む。NVIDIAの日本戦略は、単なる半導体企業からプラットフォーム企業への転換をますます鮮明にしているように見える。
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ウィスコンシン大学マディソン校とUCサンタバーバラ校の研究チームが、複数のAIエージェント同士が協力する場面で「探索」がうまく機能していないことを示す論文を発表した(https://arxiv[.]org/pdf/2607.11250)。
まず単純な設定で確かめている。1つのAIエージェントに、成功確率60%のピアAと50%のピアBのどちらかへ作業を繰り返し委任させる「2本腕バンディット」問題(手持ちの選択肢を試行錯誤しながら良い方に絞り込んでいく、探索と活用のトレードオフを扱う古典的な意思決定問題)を50ラウンド行わせた。理想的には最初は両方を試しつつ、徐々に成功率の高いピアAへ寄せていくのが正解になる。ところがQwen2.5-7B、GPT-4、GPT-5のいずれも、最初の数ラウンドでどちらか一方に固定してしまい、そのまま50ラウンド動かなくなる「早すぎる決め打ち」を起こした。比較用に置いた古典的な探索アルゴリズムUCB1(不確実性の高い選択肢を楽観的に評価し、試行回数を自然に分散させる手法)はきちんと両方を試しながら徐々に絞り込んでおり、対照的だった。
著者らはこれを「マルチエージェント探索問題」として定式化し、部分観測確率ゲーム(POSG、各プレイヤーが相手の能力や状態を完全には観測できないまま、同時に意思決定を繰り返すゲーム理論の枠組み)としてモデル化した。興味深いのが、エージェントに「探索と活用のバランスを取れ」とプロンプトで明示的に指示するだけの手法(In-Context Exploration)が、複数の文書をまたいで証拠を集めないと解けない質問応答ベンチマークHotpotQAを使い10体のエージェントに文脈を分担させた設定では、ランダムにピアを選ぶより成績が悪くなったことだ。プロンプトで頼むだけでは探索は直らず、構造的な仕組みが要ることを示している。モデルの種類が異なる4体(GPT-5、Qwen2.5-7B、Llama3.1-8B、Mistral-7B)を混ぜ、大学院レベルの専門知識を問う難しい選択式ベンチマークGPQAで解かせた実験でも同じ傾向が出た。最も強いはずのGPT-5でさえ、297回の相互作用のうち294回をQwen2.5-7Bに固定し、他のエージェントをほとんど試さなかった。
そこで著者らが提案するのがMACE(Multi-Agent Contextual Exploration)。各エージェントの選択を文脈付きバンディット問題として扱い、ピアの回答が自分と違うか(応答の多様性)、他のピアと比べて特徴的か(ピア間の異質性)、過去の成績はどうか、といった関係性を特徴量にしてLinUCB(不確実性ボーナス付きで期待報酬を推定する手法)でピアを選ばせる。HotpotQAで学習したパラメータを、追加学習なしで別の質問応答ベンチマーク2WikiMultihopQAに転用しても全ベースラインを上回った。理論面では、MACEの累積後悔(最適な選択との差の総和)がO(√(T log T))に収まる一方、探索しない貪欲な方策はΩ(δT)の後悔を負うと示されており、δはエージェント間の能力差の大きさを表す。エージェントが多様であるほど、探索の価値は際限なく大きくなる計算だ。
個々のモデルの賢さを積み上げても、「誰に何を聞くか」を決める仕組みが伴わなければ組織としての精度は頭打ちになる、という指摘として読める。
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VideoChat3が発表された(https://arxiv[.]org/html/2607.14935v1)。南京大学や上海AI研究所などの研究チームによる完全オープンソースの動画理解MLLM(マルチモーダル大規模言語モデル)で、パラメータ数はわずか4Bながら、同規模のQwen3-VL-4Bとの直接比較19項目中18項目で上回っている。
動画理解が難しいのは、静止画と違って動きや前後の文脈まで把握する必要があるからだ。既存モデルの多くはフレームを1枚ずつ独立した画像として処理するため、長尺動画やライブ配信でトークン数(モデルが処理する情報の単位)が爆発的に増えて重くなりがちだった。
そこでVideoChat3は視覚エンコーダー(映像を数値情報に変換する部品)にI3D-ViTを導入した。隣接フレームをまとめて空間・時間の両方向で処理してから時間方向に圧縮し、既存の空間圧縮と組み合わせて映像トークン数を全体で16分の1に減らしている。
さらにライブ配信向けにAdaptive Frame Resolutionという仕組みも入れた。サッカー中継で中盤のパス回しは流し見してゴール前だけ集中するのと同じ発想で、「見送り」「注視準備」「応答」の3状態を切り替えながら重要な瞬間だけ高解像度で処理する。ここの学習設計が面白い。素直に全フレームへ同じ重みで学習させると「見送り」ばかり選んでほとんど応答しなくなり(F1スコア5.8)、逆に状態の切り替わる瞬間だけに絞ると、映像を見なくても直前のパターンから「とりあえず応答する」抜け道を覚えてしまい、当たっていたのは11.8%だけだった(見逃しは少なく再現率97.9%なのに)。両者をバランスさせる工夫で、最終的にF1スコアを35.5まで引き上げている。
ベンチマークでもMotionBenchで61.7点、TempCompassで75.6点とオープンモデル最高スコアを記録し、ストリーミング理解のODVBenchではオンライン動画理解に特化したStreamForestを12.4ポイント上回る72.3を出した。長尺動画の処理も速く、2048フレームの動画ではQwen3-VL比でレイテンシを44.4秒から20.4秒に短縮している。
モデルの重みだけでなく学習コード・学習戦略・約300万件のデータセットまで全部公開しているのも特徴で、再現性を重視した設計思想が伝わってくる。
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AIエージェント向けのオンチェーン基盤(ブロックチェーン上に構築された共通の土台)を作るSwarmBaseが、700万ドルの資金調達を発表した(https://www[.]theblock[.]co/press-releases/408756/swarmbase-closes-7m-funding-round-to-scale-agentic-ai-infrastructure)。出資したのはCastrum Capital、M2M Capital、Notch Ventures、Becker Venturesの4社。調達資金はプロトコル開発とエコシステム拡大に充てられ、独自トークンの発行(TGE、新しい暗号資産を市場に出す最初のタイミングのこと)に向けた体制整備を進めるという。
SwarmBaseが取り組むのは、自律的に動くAIエージェント同士がどう信用を築くかという課題。人間なら本人確認や取引実績で相手を信頼できるが、AIエージェントの世界にはまだその土台がない。そこでSwarmBaseは、エージェントの登録から評判(レピュテーション)の蓄積、決済までをスマートコントラクト(あらかじめ決めたルールをブロックチェーン上で自動実行する仕組み。中核部分はSwarmCoreと呼ばれ、Hashlockが監査済み)でまとめて処理する。参加実績に応じて段階的に発行されるNFT(ブロックチェーン上で複製できない証明書のようなデジタル資産)バッジや、投機ではなく地道な活動の継続を評価するポイント制度もあり、高頻度のやり取りを捌きながら透明性を保つ設計だという。
現時点で登録ウォレットは24,000件超、発行済みバッジは19,600件超、1日あたりのオンチェーン取引は4,500件超に達しているという。トークン発行後は、ウォレットに紐づいたエージェントのステーキング(トークンを預けて運用に参加する仕組み)や、検証済みエージェントを探して使える「マーケットプレイス」の整備、段階的な非中央集権的運営への移行も計画に含まれる。DeFi(分散型金融)の自動化や自律トレード、複数エージェントの協調作業を支える基盤として位置づけられているが、まだ立ち上がって間もない規模感であり、実際にエージェント経済を支えるインフラとして定着するかはこれからの実績次第だろう。
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オランダ・アムステルダム発のディープフェイク検知企業Sensity AIが、欧州イノベーション会議(EIC)の資金提供先としてヨーロッパのスタートアップ上位2%に選ばれた(https://sensity[.]ai/blog/sensity-top-european-startups-receive-eic-funding/)。
EICはディープテック分野の有望スタートアップを支援するEUの旗艦的資金提供プログラムです。今回は1,760件の応募のうち87社が面接段階に進み、最終的に選ばれた38社の中でサイバーセキュリティ領域からはSensity AIが唯一という狭き門でした。
背景には深刻な脅威があります。ディープフェイクは特別な技術がなくても、IBM調べで平均1.331ユーロという実質無料に近いコストで、人間の目では見分けがつかないレベルまで作れるようになりました。Sensity AI共同創業者兼CEOのGiorgio Patrini氏によれば、2025年には企業の75%がディープフェイク詐欺を経験したといいます。
Sensity AIのマルチモーダル(画像・動画・音声)検知プラットフォームは、全モダリティで98%の精度を達成しています。ただし業界には「detector obsolescence(検知器の陳腐化)」という共通の弱点があります。特定の生成AIで訓練した分類器が、学習データにない新しい生成AIには通用しなくなる問題です。Sensity AIはこれに対し、生成AIごとの癖ではなく画像や音声に共通して残る生成の痕跡(フォレンジック的な特徴)そのものを学習する基盤モデル(特定の生成AIに依存しない汎用的な検知の土台となるAIモデル)群で対応しています。
獲得した資金は総額490万ユーロで、同社の国際展開を後押しします。うち250万ユーロは株式を渡さない形の助成金(エクイティフリーグラント)で、その一部はこの基盤モデルのさらなる開発と、計算資源が限られた環境でのリアルタイム解析の最適化に使われます。
なお同社は今年初め、Auriga Cyber Ventures主導でBetaworks Venturesや欧州のエンジェル投資家グループが参加した210万ドルの資金調達も完了済みです。
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元GoogleとShape Securityの幹部らが、AIによる詐欺やディープフェイクを検知する新セキュリティ企業「Reken」を、2024年の設立から2年間の非公開開発(ステルスモード)を経て始動させた(https://finance[.]yahoo[.]com/technology/ai/articles/reken-launches-stealth-build-internet-141400682.html)。
背景にあるのは深刻な不信の広がりだ。2026年のRBC調査では「証明されない限りオンラインメッセージは詐欺だと思う」と答えた人が83%、FBIの報告では2025年のサイバー犯罪被害額が209億ドル(前年比26%増)に達し、AI関連の被害報告だけで2万2000件を超えたという。
Rekenが出したのは「Reken Private Core」という、クラウドのAIモデルを都度呼び出す仕組みではなく端末上(オンデバイス)で完結するAIセキュリティ基盤だ。通信データを外部に送らずローカルで脅威を判定するため、GPUを積んだ特別なサーバーも追加のAIトークン課金も不要で、一般的なハードウェアだけで動く。届いたメッセージの脅威判定に加え、乗っ取られたチャネルに紛れ込んだAIボットや自動化された挙動を見つけ出すセンサーも備える。このコア上で動くプロダクト群は自動で連携し「Reken Network」という信頼レイヤーを形成、参加組織同士は安全にやり取りでき、外部からの通信も自動で危険性が分析される。
第1弾プロダクト「Northstar」は、フィッシング研修そのものを不要にすることを狙った、はたらく人のためのAIアプリだ。CEOのShuman Ghosemajumder氏(元Google Trust & Safety創業者、Gmail立ち上げにも関与)は「企業は日々数百万時間分の人手と数十億ドルを、効果のないセキュリティ研修に費やしている」と指摘する。Northstarはソーシャルエンジニアリング(人の心理的な隙を突く詐欺の手口)やディープフェイク、ビジネスメール詐欺(BEC)といった、人間の目では見抜きにくい脅威を必要な瞬間に検知し、社員が自分で見抜こうとする必要をなくす。
共同創業者のRich Griffiths氏は、AIボット防御大手Shape Security(2020年にF5が10億ドルで買収)を築いた人物。GreycroftとFPV Venturesが主導する1000万ドルのシード資金を調達済みで、元GoogleのIPO(新規株式公開)を主導したGreycroftのMarcie Vu氏が取締役に就いている。
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セキュリティ責任者(CISO)専用の業務基盤を掲げるPulse Security AIがステルスを解除し、Foundation Capital主導・Zetta Venture Partners参加で800万ドルのシード資金を調達した(https://www[.]globenewswire[.]com/news-release/2026/07/15/3327850/0/en/pulse-security-debuts-operational-management-platform-built-for-security-leaders.html)。
CEOのMike Armistead氏は「CFOには基幹業務システム(ERP)があり、CROには顧客管理システム(CRM)がある。セキュリティの責任者だけは、それに相当するものを持ったことがない」と語る。実際、セキュリティプログラムはスプレッドシートやスライド、属人的なノウハウ(tribal knowledge)で回されてきたという。米国立標準技術研究所(NIST)によれば脆弱性識別番号(CVE)の登録件数は2020〜2025年で263%増加、脆弱性データを追跡するVulnCheckの調査では2025年だけで884件が新たに悪用され、うち約29%はCVE公開と同日かそれ以前に攻撃が始まっていたという。
Pulseが80件超のCISOインタビューから見出した共通の悩みは、取締役会でも経営陣の前でも規制当局の監視下でも拠り所にできる「常に最新の状態を保った権威ある記録」が無いことだった。そこでEDR(端末の侵入検知)やクラウド、ID管理といった技術サイロと評価レポートなどの非構造データを1つにつなぐ「文脈グラフ」というアーキテクチャを採用し、散らばった情報を1枚の地図として扱えるようにしている。
創業者のMike ArmisteadとRobert Hippsは、SOC(セキュリティ運用センター)自動化のRespond Softwareを共同創業し2020年にFireEye/Mandiantへ1億8600万ドルで売却した実績組。Armisteadは以前にもアプリケーションセキュリティの先駆けFortify Softwareを創業しHPに売却(2010年)、Nick GilliganはRespondの初期メンバーで後にMandiantとGoogleでAIエンジニアリングを率いた。
他部門には当たり前の「専用の基盤ソフト」がCISOだけ無かったというのは、言われてみれば確かに歪だ。
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イスラエル/サンフランシスコ拠点のOakが、AIネイティブな「アイデンティティ運用基盤」の構築に向けて6000万ドルのシード資金を調達した(https://www[.]prnewswire[.]com/news-releases/oak-raises-60m-in-seed-funding-to-build-the-ai-native-identity-operating-system-302826349.html)。ラウンドはAccel、Greylock Partners、CRVが共同主導し、Hetz VenturesやAlphaDrive Venturesも参加している。
「アイデンティティ管理」とは、人間の社員だけでなく機械やAIエージェントまで含め「誰が何にアクセスできるか」を一元的に把握・制御する仕組みのこと。企業への主要な攻撃経路になっている一方、既存ツールは人間中心の静的な環境向けに設計されており、AIエージェントの急増に追いついていない。Gartnerは2028年までにCISO(最高情報セキュリティ責任者)の70%がこの可視化・分析機能を導入すると予測している。
Oakのアプローチは、既存ツールにAIを後付けするのではなく最初からAIネイティブで設計し直す点にある。オンプレミス、クラウド、SaaS、自社開発システムを問わず数ヶ月でなく数時間で接続でき、生のアクセス記録から組織内の全アイデンティティとその関係を可視化するデータ構造(いわゆるアイデンティティグラフ)を構築する。付与された権限と実際の使用状況を突き合わせ、リスク判定から根本原因の是正までAIが自動化するという。製品はすでに一般提供中で、複数の企業顧客に導入済みだ。
CEOのShai Morag氏は連続起業家で、Integrity-Project(2014年にNVIDIA傘下のMellanoxが買収)、Secdo(2018年にPalo Alto Networksが買収)、Ermetic(2023年にTenableが買収、買収後は同社CPOを歴任)と3社を売却してきた経歴を持つ。共同創業者兼CPOのTal Marom氏はTenableとSalesforceで製品部門を率いた。両氏は100人以上のCISOやIAM(アイデンティティ・アクセス管理)責任者に取材し、「ツールが多すぎて連携できていない」「AIエージェントを統治する手段がない」という共通課題を確認したうえで、クラウドセキュリティの断片化をCNAPP(クラウドネイティブアプリケーション保護基盤)が統合したのと同じ転換点に、今アイデンティティ管理があると見ている。
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MindLabとFudan大学が「LongStraw」という手法を発表した(https://arxiv[.]org/pdf/2607.14952)。GPUの台数を増やさずに、210万トークンを超える長い文脈で強化学習の事後学習(RL post-training、学習済みモデルをさらに強化学習で仕上げる工程)を回せるようにする実行方式。
背景にはギャップがある。推論(学習済みモデルを動かして応答を作る段階)のcontext長は100万トークン級に近づいているのに、事後学習は256Kトークン以下にとどまりがち。AIエージェントは観察結果やツールの出力、それまでの判断を溜め込みながら動くため、この差が特に効いてくる。
原因はGRPO(複数の応答をグループ内で相対比較して学習する強化学習の手法)特有の事情。同じ長いプロンプトに対して複数の応答をスコアリングし逆伝播する必要があるため、プロンプト分と応答分の計算グラフを同時にGPUメモリへ抱え込んでしまう。LongStrawは共有プロンプトを最初に1回だけ勾配計算なしで評価し、あとで必要になる状態だけを残す。そのうえで短い応答を1本ずつ勾配ありで組み立てては逆伝播後すぐ解放し、次の応答に進む。プロンプトと全応答を同時に抱えなくてよくなる代わりに、再生の分だけ処理時間は増える。
これを構造の異なる2つのモデルに実装している。再帰的に状態を更新する層(GDN)と通常のattention層を組み合わせたQwen3.6-27Bでは、8台のH20 GPUだけで約210万トークンの文脈をグループサイズ2および8で処理でき、グループサイズを2から8へ4倍にしてもピークメモリはわずか0.21GB(0.213%)しか増えない。別のストレステストでは約446万トークン(4,456,448)まで到達した。KV情報を圧縮して保持するMLAと、限られた候補だけに注意を絞る疎attention(DSA)を組み合わせ、専門家混合(MoE)も使うGLM-5.2でも、32台のH20 GPUで約210万トークンの文脈を全78層にわたって処理できることを確認している。
面白いのは「動いた」ことと「正しく学習できる」ことをはっきり切り分けて報告している点。プロンプト側の勾配はあえて切り離している。Qwenは複数GPU間で、注意機構の鍵と値にあたるK/Vに由来する勾配の同期が、追加学習パラメータ(LoRA)については完了していない。GLMも疎attentionの候補選択が各GPU内で閉じたままになっている。論文自身が、これは実行できたことの証拠であって正しい分散学習の証明ではないとはっきり書いていて、GPUを増やすスケールアウトの路線とは逆に、決まった台数でどこまで粘れるかを検証しつつ限界も隠さず書いている姿勢に好感が持てる。
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動画生成AIに複数ステップで考える力を持たせる新手法HDR(Hierarchical Denoising for Visual Reasoning)が発表された(https://arxiv[.]org/html/2607.15278v1)。
いまの動画生成AIの多くは拡散モデル(ランダムなノイズを少しずつクリアな映像に近づけていく生成の仕組み)を使っていて、迷路やハノイの塔のような視覚的な推論もできるようになってきた。ただし既存の生成方式には弱点がある。ストリーミング型(過去のフレームだけを見て左から右へ逐次生成する方式、CausVidなど)は速いが、一度生成したフレームを後から直せず序盤の判断ミスを引きずる。双方向型(動画全体を毎ステップまとめてノイズ除去する方式)は前の判断を修正できて賢いが、毎回全フレームを更新するので計算コストが重くストリーミングに向かない。
HDRは動画の潜在表現(モデル内部で圧縮された動画データ)を6段階の木構造の階層に組む。粗いレベルはノイズを多めに残して複数の可能性を保持したまま大枠の計画を立て、細かいレベルに降りるほどノイズを削って具体的な映像へ絞り込む。各階層の中は左から右への逐次生成を保つのでストリーミングの速さはそのまま。SHAP(疎な階層的注意機構、各フレームが近くのフレームと一つ上の階層だけを参照して計算量を抑える仕組み)も導入している。論文では、既存方式が迷路で序盤に間違った分岐を選んで失敗するのに対し、HDRは分岐の判断を保留してから細部を詰めて正解にたどり着く例が紹介されている。
迷路・ハノイの塔・一筆書き・スライドパズル・倉庫番・水注ぎの6タスク、370本の評価動画によるベンチマークでは、ストリーミング型ベースライン(CausalForcing)比で成功率が34.22から60.29へ(76.2%の相対改善)、平均進捗スコアも76.00から89.56へ向上。推論速度は1フレームあたり0.70秒で、双方向型(37.92秒)より54.2倍速いのにストリーミング型ベースライン(0.72秒)とほぼ同速。学習データを2%に絞っても82.9%の成功率を維持できており(双方向型は52.0%まで低下)、データ効率の高さも見どころ。実機ロボットアームの迷路実験でも同じ枠組みが機能したという。
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マサチューセッツ大学アマースト校とAdobe Researchの研究チームが、AIエージェントに検索ツールの使い分け方を強化学習で学ばせる手法「GRASP」を発表した(https://arxiv[.]org/html/2607.10463v1)。
LLM(大規模言語モデル)が自分で検索クエリを作り、結果を読み、必要なら再検索する「エージェント型RAG(検索拡張生成)」は、正しい文書を取得できてもハルシネーション(事実と異なる内容の生成)を起こすことがある。論文が挙げる例が象徴的で、「アルバム『Unapologetic』の歌手のボーカルが入ったエミネムのアルバムは?」という質問に、既存手法のSearch-R1(強化学習で検索を学習した先行手法)は検索結果に存在しない歌手名「Kelly Clarkson」を作り出して誤答してしまう。実際は「Unapologetic」はリアーナのアルバムで、リアーナが客演したエミネムの曲「The Monster」の収録アルバム「The Marshall Mathers LP 2」が正解になる。
GRASPはエージェントに意味検索・キーワード検索・段落読み込みという3つのツールを持たせ、GRPO(同じ質問への複数の試行結果を相対比較しながら方策を更新する強化学習の手法)でいつどれを使うかを学習させる。ベースモデルはパラメータ数3Bと比較的小型なQwen2.5-3B-Instruct。報酬は回答の正確さを土台に、正しい文書を読んでいるかを測る項目に最も重い比重0.7を置き、意味検索とキーワード検索の両方が正解文書を拾えているかと手数の効率にはそれぞれ軽めの0.15を配分している。
学習にはHotpotQAだけを使い、2WikiMultiHopQAとMuSiQueには追加学習なしで適用しているが、3つのベンチマーク全体で検索再現率・QA正解率(EM、生成した回答が正解文と完全一致した割合)ともに総合的に最も高い性能を示した。比較対象のIRCoTはGPT-5-miniに思考過程を生成させる手法で検索再現率は高いが、方策学習を伴わないためかQA正解率は伸び悩んでいる。HotpotQAでのGRASPのEMは0.53で、同じくRLで学習したSearch-R1(GRPO版)の0.45を上回った。
アブレーション実験(学習データを絞った専用の実験設定)では、段落読み込みツールを外すとEMが0.510から0.388まで落ちる。粗い粒度の検索結果だけでは、次にどこを検索すべきかの手がかりが薄まってしまうことを示している。
学習後のエージェントは、意味検索で広く探索し、有望な段落を読み込んで裏付けを取り、固有名詞が分かればキーワード検索で絞り込むという、人間の「拾い読み→精読→ピンポイント検索」に似た挙動を自発的に獲得していた。学習済みモデルは1問あたり平均8回程度のツール呼び出しに収束しており、闇雲な検索ではなく効率的な情報収集を学んでいる。
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ニューラルネットワーク(NN)が「群演算(group composition)」を学ぶとき、内部で何が起きているかを初めて数学的に証明した(https://arxiv[.]org/abs/2606.02993)。
群とは整数の加算やモジュラー算術(時計算術、例として x+y mod 12)のような代数構造のこと。g₁⋆g₂ を予測する2層NNを訓練すると、各ニューロンは「既約表現(irreducible representation = 群の最小スペクトル単位で、フーリエ変換の基底に相当するもの)」に確率1で収束することが証明された(Theorem 4.3)。
興味深いのはその「選ばれ方」で、ランダム初期化のタイミングで偶然わずかに優勢だった既約表現が「ロッタリーチケット」として勝ち残り、他の候補は指数的に消えていく。どの表現が選ばれるかは初期化の「籤」で決まる。
アーベル群(足し算のように a⋆b=b⋆a が成り立つ可換な群)では完全な証明が得られた(Theorem 5.1, 5.3)。各ニューロンが学ぶ周波数は全体で均一に分散し、入力層と出力層のフーリエ位相が加法的に揃う(位相アライメント)。両プロセスとも指数収束速度で発生する。
実験はアーベル群 Z₃⊕Z₅(15元素、1024ニューロン)と非アーベル群のフロベニウス群 C₇⋊C₃(21元素)で検証済み。どちらも理論通りの挙動を確認した。
mechanistic interpretability(NNの内部を逆エンジニアリングする研究分野)で「単一周波数への特化」と呼ばれていた現象が、実は群論の表現論的構造そのものを発見していたことを示した研究。さらに「grokking(長い訓練後に突然テスト精度が跳ね上がる現象)」を Stage I(表現学習)→ Stage II(スケールが対数成長してsoftmaxを鋭化)という2段構えのダイナミクスとして説明できる理論的基礎にもなるかもしれない。
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LoRA(大きなモデルを固定したまま全体の1%未満のパラメータだけ追加学習する手法)の役割を根本から見直す論文(https://arxiv[.]org/abs/2606.02437)。
「安価な代替手法」ではなく、1つの巨大基盤モデルの上に何百万もの個人専用AIを並列で動かす基盤として再定義している。
最も具体的な示唆はこの比較だ。DS-Distill-Qwen-1.5Bをフルで学習(1.5B全パラメータ更新)するとAIME 2025の改善率は8.33%。一方でDS-Distill-Qwen-32BにLoRA rank-8(学習パラメータはわずか0.07B)をかけると20.61%。学習パラメータが1/20以下でも、強い基盤モデルの潜在能力を引き出す方が圧倒的に効率良い。
論文は3つの軸を整理する。
Scale Up(基盤モデルを強くする)では、Kimi K2(総パラメータ1.04兆・実行時32.6B)でLoRA強化学習を実現し、フルパラメータRLに比べGPU使用量を約10%に圧縮した。
Scale Down(アダプタを小さくする)では rank 16〜32が実用デフォルト。rank 1〜4は成果は出るが不安定な研究フロンティア。
Scale Out(多数の個人モデルを並存させる)では198個のLoRAバリアントで多数決をとるとAIME24の正答率が0.3644から0.4867に上昇。個人モデルの多様性が集合知として機能する。
Qwen3-235B + rank-32 LoRAでALFWorld(言語で指示する家事ロボットベンチマーク)スコアが0.646から0.845に改善し、LoRAが「事実の暗記」でなく「スキルの定着」として動くことも示した。
1つの共有モデルが何百万人分の「記憶・習慣・スキルを持つ個人AI」を支えるという絵が、現実のインフラの話として出てきた。
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